大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(行コ)142号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二  争いのない事実等

争いのない事実等については、原判決の事実及び理由中の「第二 争いのない事実等」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決書六頁八行目の「事務所を有する者であり」とあるのを「事務所を有し、本件条例五条二号により実施機関に対して公文書の開示を請求することができる者であり」に改める。)

第三  争点及び争点に関する当事者の主張

争点及び争点に関する当事者の主張については、原判決の事実及び理由中の「第三 争点に関する当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  証拠《略》

第五  当裁判所の判断

一  当裁判所の判断も、被控訴人の請求は理由があり、これを認容すべきものと判断する。その理由は、原判決が事実及び理由中の「第五 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

なお、控訴の理由にかんがみ、控訴人の主張に対する当裁判所の判断を以下のとおり付言しておくこととする。

控訴人は、地方公共団体の執行機関と議決機関とは、それぞれ独立して相互に牽制し、協力しあうべき関係にあるところ、地方公共団体の長と議会の関係において地方自治行政の円滑な維持を図る上では、両者間の良好な信頼関係が維持されていることが必要であり、本件対象文書のように議会の作成にかかる文書については議会の意見を尊重すべきであって、本件対象文書については、控訴人が議会局に対し意見を求めたところ、議会局から、「本件は、情報開示の実施機関でない議会の情報であり、議員の議会活動に密接にかかわる議会に関する情報であるため、これを控訴人が開示した場合、議会の自主性、自立性を損ない、ひいては議員の議会活動に支障を生じることになりかねない。」として、その非開示を要望する旨の回答を得たのであり、また、信頼関係とは当事者間の主観的な関係の中でのみ成立するものであるから、右にいう信頼関係とは主観的な信頼関係をいうものと解すべきであり、本件において議会局から非開示を要望する旨の回答があった以上、控訴人としては、その要望が客観的にみて合理的か否かを問うことなく、非開示の決定をすべきであって、実施機関である控訴人が、これを無視して本件対象文書を開示することは、執行機関である知事と議決機関である議会との信頼関係を損なうことになるものというべきである旨主張する。

なるほど、地方公共団体の執行機関と議決機関とが、それぞれ独立して相互に牽制し、協力しあう関係にあり、執行機関の長である控訴人が都議会の自主性、自立性を尊重すべきであることはいうまでもない。しかし、本件条例は、一条において「この条例は、公文書の開示を請求する都民の権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定め、もって都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的とする」旨を規定しており、また、本件条例の規定の解釈適用に関する指針として、本件条例三条は、「実施機関は、この条例の解釈及び適用にあたっては、公文書の開示を請求する都民の権利を十分に尊重するものとする」旨をも規定しているのである。そして、前示のとおり本件対象文書に含まれる情報は、出納事務に関し、公金の使途、目的、支出した金額及び目的等都の財政の適正を期するために必要とされ、納税者である都民が関心を有するのが当然の情報であるから、その知る権利を十分尊重すべき最も基本的な情報に属するものである。また、そうであるからこそ、そもそもこのような出納に関する情報は関係当事者としても公開されることを予め十分予測すべきであるともいえるものであり、また、本件対象文書に含まれる情報の性質、内容それ自体から、これらの情報が公開されることによって関係当事者間の信頼関係を損なうことがあるとは一般的、客観的に想定し難いものである。このような本件条例の趣旨、目的、各規定の定め、及び本件対象文書に含まれる情報の性質、内容等を考えると、これらの情報が本件条例九条八号が規定する「開示することにより、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」であるというためには、単に主観的あるいは抽象的な信頼関係というのみでは足りず、当該情報が開示された場合右規定により保護するに値する客観的、具体的な信頼関係が関係当事者間において損なわれると認められることが必要であると解するのが相当である。なぜなら、もし本件対象文書について、客観的、合理的な理由もなく、単に議会局がその開示を望んでいないというだけで、主観的な信頼関係を損なうものとしてこれを開示しないことが許されるとすれば、前示のように本件条例が都民に公文書の開示を請求する権利を認め、都民と都政との信頼関係を強化することを目的とし、また、解釈適用に関する指針として、この権利を十分尊重するものと定めた趣旨が没却されてしまうおそれがあるといわなければならないからである。したがって、本件条例二条二項の定める公文書であることにつき当事者間に争いのない本件対象文書の開示が控訴人と都議会その他の関係当事者との信頼関係を損なうと認められる客観的、具体的な事由についてはなんら明らかにされることなく、単に都議会の事務局たる議会局から、前示のとおり非開示を要望する旨の回答があったというのみでは、本件対象文書の開示が本件条例九条八号が規定する「関係当事者間の信頼関係が損なわれるもの」と認めるには足りず、控訴人としては本件対象文書について非開示の決定を行うことはできないものというべきである。控訴人の右主張は採用することができない。

二  よって、被控訴人の控訴人に対する本件請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成一〇年一一月五日当審口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宗宮英俊 裁判官 長 秀之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例